東京高等裁判所 昭和28年(行ナ)21号 判決
原告 坂本梶太郎
被告 特許庁長官
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
二、事 実
第一、請求の趣旨
原告訴訟代理人は、昭和二十七年抗告審判第三一八号事件について、特許庁が昭和二十八年六月二十九日にした審決を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。との判決を求めると申し立てた。
第二、請求の原因
原告訴訟代理人は、請求の原因として、次のように述べた。
一、原告は、昭和二十五年十一月二十四日別紙記載のように、「NKNIKKA」の羅馬字を、ゴシツク体風の同一書体、同一大きさで、一連に左から横書にして構成せられている原告の商標について、第十八類、理化学、医術、測定、写真、教育用の器械器具、眼鏡及び算数器の類並びにその各部を指定商品として、その登録を出願したところ、(二十五年商標登録願第二六九八〇号事件)拒絶査定を受けたので、昭和二十七年四月十二日抗告審判を請求したが、(昭和二十七年抗告審判第三一八号事件)特許庁は、昭和二十八年六月二十九日原告の抗告審判請求は成り立たないとの審決をなし、その謄本は、同年七月九日原告に送達せられた。
二、審決は、登録第二三九〇三五号商標を引用し、原告の右出願商標は、これと類似し、同一又は類似の商品に使用するから、商標法第二条第一項第九号の規定によつて、登録することができないものと判定したが、右引用にかかる登録第二三九〇三五号商標は、別紙記載のように「日華」の文字を縦書にして構成されており、第十八類感光膜、閃光粉その他本類に属する商品を指定商品として、昭和七年十二月十九日登録、昭和二十八年一月十四日更新登録のなされたものである。
審決は、その理由として、原告の商標と引用商標とは、その外観上は、明かに差異があるが、その称呼上から見ると、原告の商標は、羅馬文字で、同一書体、同一大きさで一連に横書にし、当該文字は造語と認められるから、一応「エヌ、ケー、ニツカ」という一連した称呼は生ずるが、また「NIKKA」の文字に冠した「NK」の文字は、氏名の略称として、又は商品の品位、品質表示上の記号として、普通に慣用せられるものであるから、世人の注意力は、「NIKKA」の点に強く引かれ、その部分が要部と認識され勝ちであることは、取引の実際に徴し、相当とするところであるから、原告の商標は、単に「ニツカ」印とも称呼せられ、称呼上、観念上彼此まぎれる虞があると説示している。
三、しかしながら、審決は、次の理由で違法である。
(一) 原告の商標の構成は、先に述べたとおりであるから、需要者及び取引者は、「エヌ、ケー、ニツカ」と一連した称呼を生じ、冐頭四音を異にして七音で発音されるのに比し、引用商標は、「ニツカ」の三音で発音され、かつ、引用商標は、「ニ」に音便が生ずるのに反し、原告の商標においては、「エ」と「ケ」と「ニ」に音便が生ずる。また引用商標が短音なのに反し、原告の商標は長音であるから、両者から聴者の受ける印象は全く相違し、称呼上、観念上互にまぎれる虞はない。
(二) 原告の商標は、前述のように、「NKNIKKA」の羅馬字をゴシツク体風の同一書体、同一大きさで、一連に左から横書にして構成されている造語であるから、その構成する文字は、その構成上軽重の差異がないから、不可分的一体をなし、その称呼及び観念を生じ(昭和三年七月九日大審院判決参照)これがまた商取引の一般であるから、審決が、原告の商標を目して「NIKKA」の文字に、「NK」の文字を冠したものであると認定したのは不当である。
(三) 原告の商標中、「NIKKA」の文字があつても、その構成上、「NK」の文字に比し、圧倒的重要価値がないから、仮りに「NIKKA」の文字が要部をなしてさえ、両者は類似するものとすべきではない。(昭和四年十二月二十四日同判決参照)
(四) しかのみならず、前述のように、「NKNIKKA」の羅馬字を、同一書体、同一大きさで、一連に記載したときは、「NK」の文字は、氏名の略称、商品の品位、品質の表示上の記号として、普通に慣用せられないものであるから、直ちに「NIKKA」の点に強く引かれ、要部と認識せられることは、商品の取引上あり得ないから、審決の認定は、商取引の実験則を曲解したか、看過したものである。
第三被告の答弁
被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、原告主張の請求の原因に対して、次のように答えた。
一、原告主張の請求原因一及び二の事実は、これを認める。
二、同三の主張は、これを否認する。
原告の商標から、一応「エヌ、ケー、ニツカ」印の称呼が生ずることは、いうまでもないが、「NIKKA」の文字に冠した「NK」の文字は、氏名の略称として、または商品の品位、品質等の表示記号として取引上普通に使用されるものにすぎないと、一般世人において容易に想起し、注意力は「NIKKA」の点に強く印象づけられて、その部分が要部と信ぜられるというべきで、両者の組合せは、不可分的一体をなしていると判断すべきでない。従つて原告の商標は、単に「ニツカ」印とも称呼されると解するのが、取引の実際に徴し、極めて自然であつて、審決の引用にかかる登録第二三九〇三五号商標とは、称呼及び観念上彼此まぎらわれる虞があるといわなければならない。
第四証拠<省略>
三、理 由
一、原告主張の請求原因一及び二の事実は、当事者間に争がない。
二、原告の登録出願にかかる商標は、別紙記載のように、「NKNIKKA」の羅馬字を、ゴシツク体風の同一書体、同一大きさで、一連に左から横書にして構成されていることは、右に述べたように、当事者間に争のないところである。この商標から、原告の主張するように、「エヌ、ケー、ニツカ」の称呼の生ずることは疑がない。しかしながら「NKNIKKA」の初の二字「NK」は、次の五字「NIKKA」の子音に該当するから、取引において、人々は、右「NK」は、「NIKKA」の省略語の単なる繰り返えしとして、「NIKKA」の部分についてのみ、強い印象を受け、右商標を使用する商品を、「ニツカ」の呼び名によつて、指称し識別することも、決して予期し得ないことではない。して見れば、右原告の商標において、「NIKKA」は、その要部をなし、これより「ニツカ」の称呼をも生ずるものと解するのを相当とする。
原告は、原告の商標は、前記のように、その構成から見ても、「NKNIKKA」の全体が、不可分的一体をなし、これを不可分的に称呼し、観念するのが、商取引の一般であると主張するが、その構成上これを不可分一体にのみ解さなければならないものとは認め難く、また商取引上不可分の一体としてのみ称呼し、観念されているとの事実は、これを認めるに足りる証拠はない。
三、一方審決が引用した登録第二三九〇三五号商標が、別紙記載のように、「日華」の文字を縦書にして構成されていることは、これまた先に述べたように、当事者間に争のないところである。右商標から「ニツカ」の称呼が生ずることは、疑を容れないところであるから、原告の商標は、右引用商標とその称呼を同一にし、両商標は、類似するものといわなければならない。
次いで、右両商標の指定商品が、全く同一であることは、前記当事者間に争のない事実から明白である。して見れば、審決が、商標法第二条第一項第九号を引用して、原告の商標は、登録することができないとしたのは、相当であつて、審決には、原告主張のような違法はない。
四、以上の理由により、原告の本訴請求は、その理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のように判決した。
(裁判官 小堀保 原増司 高井常太郎)
(別紙商標省略)